約 30,346 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5482.html
俺のせいだ。全部俺のせいだ。 俺が国家権力に守ってもらえば安心だと安易に考えなければよかった。そうすりゃ、少なくとも森園生は死ななかった。 生死の確認なんかできなかったが、あのケガだ。今頃は…… 「ちくしょう!」 床を叩き、切創から血が滲む。 だが森園生はこの痛みの何百倍も傷ついた。なのに俺は生きている。俺だけが生き残ってしまった。 なぜだ?なぜ俺がこんな目に合わないとならないんだ? そもそも、この物語の始まりは何だ? 母の死?なぜ母が殺された? いままでは殺人鬼の妄想くらいにしか思っていなかった。ならばなぜ森園生が殺される?警官である彼女まで殺す理由がどこにある。 その瞬間、絶対に認めたくないことがアタマをよぎった。まさか!? 「俺……なのか?」 嘘だ。そんなのはありえない。俺はあんな女知らない。素性も接点も知らない女に、なんで狙われなならん。 だがここまで来れば、あの女の目的が俺なのは明らかだ。でもぜったいに認めるわけにはいかない。 だって認めたら、母も森園生も、その他の被害者達でさえ、俺が殺めたようなものじゃねぇか。 俺のせいで死んだ。そんなことあってたまるか! 自分の行いを必死に否定するため無数の言い訳を考え続けていると、ある不可解を感じた。 「ちょっと待て。地下何階まで降ろす気だよ」 いつまで経っても一階に到達しないのだ。 そんなバカな話があるか。さっきは七階まで行くのに一分もかからなかったはずだ。それなのに、延々と自問自答を繰り返していた長時間中に、なぜ着かない。 不審に思い、パネルで現在の階層を確認したが計ったかのように数字は映っていない。どこの三流ホラー映画だ。ベタすぎて寒気がしやがる。 それからさらに数分。地獄の賽の河原に迷い込みそうな気分になったころ、やっとエレベーターがドアを開いた。 「……な!?」 訂正。本当の地獄はこれからだった。 「趣味の悪いリフォームだな」 壁も床も、そして入り口から覗くわずかな空でさえ、極端に彩度を落としたような灰色だった。 念のためインターフォンの真向かいにある管理人室を覗いてみたが、予想どおり無人であった。 勘弁してくれ。なんだよこの超展開。つーかここどこだよ!悪夢ならとっとと目を覚ましやがれ! 誰に見せるでもなく強がってみたものの、膝が正直にガクガクと揺れてしまう俺の姿は、きっと最高にカッコ悪いはずだ。 恐い。恐ろしい。自分が今まで信じていた世界が一変することに、ここまで恐怖を覚えるなんて思ってもいなかった。 だが、今の俺は逃げることもできない。何をやったら元の日常に戻れるのか、皆目見当がつかない。 とりあえず、この手と足に受けたケガの治療をしよう。消毒薬とガーゼと包帯なら、多分コンビニに置いてあるだろう。 手近なコンビニに押し入って、医療用具を無断拝借することに罪悪感を覚えたが、カルネアデスの板である。開き直って食料までいただくことにした。無駄だろうが、代金をレジカウンターに置くぐらいはしておこう。 応急処置と腹ごなしを終え、次なる一手を思いあぐねた。 やはり北高か。朝倉涼子は北高生だし、あの小説の舞台も北高だった。これを偶然の一致だとは思えない。 北高に行けば何かわかるかもしれない。帰る方法も、この世界のこともな。そんな気がする。 痛む足を無理矢理進めることは、非常に体力を消耗するが、普通の人よりいくばくかの時間をかけて、北高校門に到着できた。 この足で、あの坂は辛かった。それにしてもここの生徒は、毎日あれを往復しているのか?絶対何人かは自転車かバイクで登ってるだろ。 俺を誘うかのように鍵のかかっていなかった校門を抜け、昇降口を通り、あっけなく校内に侵入ができた。 ちなみに土足である。今さらこんぐらいの悪事は気にしないからな。どうやら善悪感情がマヒしてるようだ。 さて、ここから先はどうするべきだ? ヒントなんて無いに等しい。あるとすれば、あの小説ぐらいか。 取りあえず、あの物語を追っていこう。となると、主人公のクラスである一年五組に行ってみるか。 ほどなくして一年五組に到着した。 ちなみにこの灰色の北高校舎には誰もいないようだ。人の気配が微塵もしないからな。なかば諦めの境地で各部屋を覗いてみても、やはり人影はなかった。 「……やっぱり誰もいないか」 もちろん、教室は無人だった。まるで学校閉鎖を知らずに登校したバカなガキになった気分だ。 教室に入った瞬間、孤独感と疲労感が同時に押し寄せ、歩く気力すら失った俺を誰が責めようか?とにかく休みたい。 座りたい。その思いだけが俺の筋肉を動かし、いつの間にか窓際後方二番目の席に腰を下ろしてしまった。 もう嫌だ。疲れた。とっとと帰って風呂に入りたい。そして母親の晩飯を喰って、眠りたい。 平凡すぎてつまらない願いだが、今の俺はこれ以上望まない。これだけで良いから叶えてくれ。 だが、それすらも叶わないなんてどうかしている。 なんで俺がこんな目に合わなきゃならないんだよ。それなりに不真面目に生きてきたが、ここまでされるようなことをした覚えはねーぞ。 必死に自分の行いを思い返してみたが、当然、こんな報いを受ける理由など思い浮かばない。 ふざけんな。 ふざけんな。 「ふっざけんじゃねぇ!」 目の前の机が、けたたましい音を立てて、床に接触した。 「一体何のつもりだ!」 腰を下ろしていた椅子を掴む。 ガラスが飛び散る。破片が何粒か服に刺さったが、そんなことはどうだっていい。 「何でだよ!何で俺なんだよ!」 手当り次第に物を掴み、激昂と共に窓ガラスを突き破り、外に投げ出されていく。 途中からはそれすらも面倒になってきたので、椅子や机が校庭へ飛ぶ事は無くなり、代わりに手や足がドンドン真っ赤になっていった。 そうさ。こんなのただの八つ当たりさ。だけど何もできないんだ。だったら八つ当たりくらいさせてくれ。 黒板は割れ、教卓は原型を留めておらず、掃除ロッカーにいたっては元のサイズの半分以下にまで凹んでいる。 ボロボロになった一年五組で一人荒い呼吸で立たずんでいるが、それでも気分が晴れる事は無かった。 ダメだ。こんなんじゃまだ足りない。 壊れた掃除ロッカーのドアを蹴破り、中からトンボ型モップを取り出した。 「うるぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 出入口を叩き割る。 まだだ。俺の血を冷ますにはまだまだ暴れ足りない。 「何もかもぶっ壊してやるよ!」 もうヤケだ。どうにでもなれ。 冬場の冷たい水道水が、両腕の血を洗い流してくれる。 一年五組で気の向くままに暴れ回ったおかげで、やっと疲労で立っていられなくなってくれた。そして周りを見ることが可能になり、自分の所業に一段落がつけられた。 他人事みたいに言うが、竜巻でも起きたのだろうか?やってる途中は一種のトランス状態のために気がつかなかったが、どうやってここまで暴れたんだ? 無事な窓ガラスは一枚だって無く、教室内は傷だらけ。俺自身、両腕両足に内出血のオンパレードである。あー疲れた。 ところで今は一体何時頃だ? 時計はハナっから止まってるのでわからないし、空模様は灰色一色である。 まだ夕方なのか、はたまた真夜中近いのか、それすらもよく分からない。 「……誰だ?」 瞬間、灰色の世界の遠くで、小さな物音が聞こえた。 人がいる!と思ったが、そんな安易な発想は捨てるべきだ。この世界に来た以上、何が起こるかわかったもんじゃない。 モップであった残骸の柄を握り締め、音に目がけて歩みを進めた。「人」だといいね。 一歩一歩進むうちに、物音の正体がわかってきた。それは「泣き声」だ。 はっきり言って怖すぎる。こんな人気も色気もなにも無い場所で泣き声だぜ?嬉しいよりも恐ろしいの方が強すぎる。 それでも気にした以上は確認しなければならない。存在の知らない恐怖より、存在の知れた恐怖である。見ないより見といた方がまだ安全だ。 泣き声に誘われて訪れた場所は、灰色の世界でなければ女生徒とお弁当を食べてみたい気分になりそうな中庭である。 ドアとドアの隙間から泣き声の主を確認してみる。……中学生くらいの女の子か? 見た感じでは、とても俺の命を危険にさせる存在には見えない。しかしここは灰色のホラー空間。何がおきるかわかった物じゃない。 スルーしようと踵を返したが、少女の泣き声だけが耳に残る。 この世界は怖い。めちゃくちゃ怖い。今にも失禁しそうなくらいにな。でもあの少女はもっと恐ろしい気分じゃないのか? 「あーあ、俺も甘いね」 モップを捨て、泣きじゃくる少女の前に出ることに決めた。罠なら速攻で逃げてやる。 「……誰?」 少女と目が合った。散々涙を流してたくせに、俺と出会った瞬間に睨みつけやがった。選択ミスったか? 「俺?この世界にビビリまくってる哀れな高校生だよ」 「あっそう」 それだけ言って、俺の事など頭のCPUから削除したようだ。失礼なガキだな。 「お前こそ、ここで何やってるんだ?散歩ならもっと気色の良い場所を選べよ」 見てみろよ。花だってこんなグレーじゃ愛でる気にもならねぇ。 「どうだっていいでしょ」 よかねぇよ。こんな場所でガキ一人見捨てるなんてできるか。こう見えて俺は結構小心者なんだ。 少女は何も答えない。勘弁してくれ。親の顔が見てみたいね。 「まったく。名前も言えませんなんて、そこらの迷子よりよっぽど性質が悪い」 その瞬間、少女の肩が短く跳ねた気がした。 「まさか……お前、マジで迷子か?」 「……悪い?」 なるほど。この子はしつけがなってないわけじゃない。ただ自分が迷子になってるなんて認めたくないだけか。それを知ると、ただの強がりにしか見えないわけで、あれだね。可愛いね。 「ま、そんなに気にすんな。俺も似たようなもんさ」 「あんた、何て言うの?」 偽名なんか無いし、嘘をつく必要も無いので、正直に本名を名乗った。正直は人間の美徳である。 「ふーん。変な名前ね」 よく言われるよ。ストレートすぎてあまり見ない名前だしな。 「それで君は?ワットユアネーム?」 「ハルヒ。涼宮ハルヒ」 世界が止まった。 ハルヒ?俺が知る限り、涼宮ハルヒはあいつ一人だ。あの黒髪長髪美少女の彼女一人。 そして目の前の少女も涼宮ハルヒだって?同姓同名? 「そうか。よろしくな、ハルヒちゃん」 いや、もう何が来ても驚けない。彼女が涼宮ハルヒなら涼宮ハルヒだろ。 「なにすんのよ。手を下ろしなさい」 カチューシャの上から頭を撫で続ける俺に、彼女が釘を刺してきたが、自分で退かそうとはしない。 大方、寂しかったんだろ。俺でさえ寂しくて発狂したんだし、涼宮ハルヒだって怖かったはずだ。 「さて、ここから出る方法を探すぞ」 だが涼宮ハルヒは俺が引いた手を止め、その場から離れようとしなかった。どうした? 「どうせ闇雲なんでしょ?だったらあたしの捜査に協力しなさい」 こんな場所で何を捜査してるんだか。食べ物の場所か?おもちゃか? 「子供扱いしないで。人よ人。人間!」 子供って。世間じゃ中学生はまだまだ子供だ。ま、高校生も子供だが。 「で、誰を探してるんだ?」 「有希よ。長門有希。あたしの友達よ」 「……長門有希がここにいるのか?」 あの青春小説の作者が、こんな色気の無い場所に? そもそも実在するのか?いや、実際に作品があったのだから当然だが、なんとなくだがペンネームか何かだと思っていた。 涼宮ハルヒ、古泉一樹、長門有希、朝倉涼子、この分じゃ朝比奈みくるにキョンって奴も出てくるかもしれん。 あの小説は実在する人物をモデルにした作品であり、過去に似たようなことが起きたのか? 「どうしたのよ?顔が怖いわよ」 「いや、昔からの癖でな。頭をフル回転させると、どうも顔の筋肉が固まるらしい。ちょっと待てよ。今、ほぐすから」 ほっぺたを掴み、顔面をホームベース状にして……イダダダダ。 「フン……バッカみたい」 ならその笑いを堪えているしかめ面をもっと上手く隠すんだな。 「うっさい!」 って!傷口のある足の甲を踏みつけんなよ!俺じゃなかったらよけれんかったぞ!? 「フン」 不機嫌な顔の割りには歳相応に臆病なのか、彼女は無傷な俺の左手を離さずに前に進んで行った。 歩きながら考えてみた。 あの小説の時期は四月から五月。俺の記憶じゃ涼宮ハルヒと古泉一樹に出会った頃だ。 さっきは実在の人物をモデルにしたと思っていたが、この相違はどういうことだ? あの二人は間違いなく光陽園の生徒で、俺の数少ない友人達だ。……本当にそうなのか?ここまでわけがわからん世界だと、既に俺自身が狂っているなんて考えすら思い浮かんでくる。 実際の俺は、今頃病院のベッドの上で植物状態もしくは、精神に異常をきたした入院患者なのかもしれない。 「……また怖い顔になってる」 いや、そんなことがあるわけない。この手の温もりが妄想とは思えない。 俺の隣で涼宮ハルヒは生きている。それがわかる限り、俺が狂ってるわけがない。 「ハル。ありがとな」 「……急に何?」 俺の存在を証明してくれてありがとう。とは言わないでおいた。 「変な奴……あ、ちょっとまって」 繋いだ手を振りほどき、涼宮ハルヒはいきなり駆け出した。ちょっと待て、転ぶぞ。 「ここ!なんか気になる!」 この世界には似つかわしくない色味の激しい声で指差す部屋は一年五組だった。 どういうことだ?この部屋は発狂しかけた俺が気の向くままに暴れまわったんだ。それなのに初めて訪れた時と全く変わってないじゃないか。 「待て!ハル!」 慣れ親しんだ俺考案ニックネームで呼びかけてしまったが、彼女は気にすることなく教室に入ってしまった。 「ただの人間に興味ありません。この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、私の所に来なさい。以上」 教室の真ん中で全生徒の度肝をライフルで射抜くような突飛な自己紹介をしたのは、俺が良く知る髪の長い涼宮ハルヒだった。 だが今さら涼宮ハルヒが二人も現れようと大した事態じゃない。ぶっちゃっけあと20人くらい出てきても驚けねーよ。しかし、 「俺……?」 窓際二列目の席で、涼宮ハルヒをうるさそうに眺めている俺がいた。 「おい!」 理解不能な光景を見たことで、反射的に声を上げてしまった。 その瞬間、窓の外に咲き誇る桜の花が散るかのように、教室は元のグレーな世界に戻った。 違う。あんなのはまやかしだ。俺は北高なんか受験した覚えは無い。 反射的に同行者であり小さな恩人である涼宮ハルヒに目を向けた。 何も見てないと言ってくれ。 気のせいだと言ってくれ。 俺の存在を証明してくれ! 「……ハル?」 教室から涼宮ハルヒが消失していた。 「おい!どこにいるんだ!」 必死になって机をひっぺがえし、ロッカーを乱暴に開けていく。頼む!俺を一人にしないでくれ! 金髪ピアスなヤンキー男子高校生が中学生くらいの女の子に助けを求める姿である。さぞ情け無いだろうが、恐いもんは恐いんだ! 「……くそ。どこにもいない」 絶望が体中を駆け巡り、恐怖で立っていられなくなった。こんなにボロボロなんだ。今さらケツに床埃が着こうが関係ない。 さっきまで感じていた手の温もりが、今は感じられない。 「ちくしょう……」 思わず涙が零れた。 情け無い。俺はいつから迷子のガキに成り下がったんだよ。 「男が泣くな。みっともない」 血染めの袖で涙を拭ったことで、顔に血の跡が着いた。 涼宮ハルヒを探しにいこう。俺だってこんだけビビッてるんだ。あの子だって恐がってるに決まっている。 恐怖を煽る以外には何物でも無いグレーの壁が視界一杯に広がる廊下を歩く。 手がかりはゼロ。しかし本気で恐いがビビるわけにはいかない。 「……どこにいるんだよ」 声にいつもの覇気が無い。かすかにこだまする声が、何だか物寂しい。 俺って、こんなに臆病でみっともなくて、弱い奴だったんだな。改めて実感したよ。 「何を言ってるんだか。俺が強いわけねーだろ」 こんだけダサく立ち振る舞ったんだ。そんな俺が強く清く美しいわけない。 寂しがり屋だし、マザコンだし、短気だし、女に手を上げたし。良いとこねーな俺。最悪だわ。 「ハハハハハ……なんでだろうね。なんかスッゲースッキリした」 大体、本当の強さってなんだ? あぁ、確かにケンカは強いさ。今まで負けなしで通ってきたしな。 でも俺が拳を振り上げるのは、勝つためでもなければ、相手を屈服させるためでもない。 俺がケンカする理由はただ一つ。それは逃げるためだ。 俺に近寄るな。ほっといてくれ。それ以上寄るならぶっ飛ばすぞ。これである。 そうさ。俺は「弱い奴ほどよく吠える」そのまんまだ。あーあ、かっこ悪い。 いくら力が強くても、心が弱けりゃ弱者だ。 じゃあ心の強さってなんだよ。 「んなもんわかるか。わかるくらいなら、俺はこんな弱い人間にはならなかった」 俺は弱い。それでいいじゃないか。 強さ。それは本当に必要な物なのか? そんな実も蓋も無いことを思った時だった。 灰色の空から青白い閃光が煌き、廊下を照らした。 「な、な、なんだぁ!?」 反射的に窓の外を見てしまった事を後悔した。 そこにいたのは蒼く輝く巨人だった。 「嘘だろ……」 目の前の光景が現実であることくらいわかっている。それでも理解なんかしたくなかった。あんなにでかいのに、なんで二足歩行で立てるんだよ。 血の色みたいに赤い目玉と眼が合う。 マズイ。ビビリすぎて逃げることすら忘れていた。 「ぐがぁっ!」 同時に、柔らかい布で覆った灰皿でブン殴られたようなヒドイ頭痛がする。 「な……なんだよ!俺に何をさせる気だ!」 呼吸がマトモにできないほどの痛みだ。もしかしたら言葉にすらなっていないのかもしれない。 蒼の巨人に虚勢のタンカを切ったが、当然、何も答えない。 ―スタンバイ完了。当該既定に基き、これよりダウンロード開始― 心臓が大きく脈動し、意識が遠のいていくことがわかった。 待ってくれ!俺を連れて行くなぁぁぁぁぁぁぁ! 遠のいた意識が戻ってきた。ここはどこだ? 目を開くと、茜色の日差しが差し込む夕方の廊下に立ち尽くしていた。 もう嫌だ。帰りたい。帰ってベッドの下のエロDVD見たい。寝たい。腹減った。 もちろんエロDVDを見て発散することも、食事をすることもできないが、寝ることくらいはできそうだ。 『本当、なにをしに学校来てんだが』 目を閉じようとした時に声をかけれると、なんでこうもイラッと来るのだろうか。 『あいつは何考えてるかわからないから不気味だよな』 さっき聞こえた声とはまた違う声が耳に届いた。 『恐いよね』 蚊の羽音みたいにうるさい話し声だったので、仕方なく目を声の方角に向けてみた。 「……一年五組」 北高一年五組。もう今さら驚きも何も感じないが、ここまで来ると俺とは無関係とは思えない。 わざと聞こえるように話してんのか?戸が開いてるからって丸聞こえじゃねーか。 足を動かすと共に体中から悪寒がダダ漏れしやがる。近付きたくない。でも知らなければならない気がする。 『マジ学校やめてくれないかな。あいつが教室いると息苦しい』 『なに格好つけてんだが』 『あの金髪恐いよ』 その先に続いた単語の名詞に、少しだけ心臓が脈打ったのを感じた。 俺の名前だった。 あの陰口三人組が語る金髪男こそ、俺であった。 今さら驚くことじゃないさ。ここまでくれば俺が北高と無関係なわけが無い。 漫画とかドラマの主人公なら、この教室に乱入するかもしれないが、ビビリでヘタレなチキンな俺である。180度旋回して教室から離れてた。これ以上聞いていたくない。本音である。 「……ちくしょう」 学校を離れ、急坂の下まで歩いたあたりで悔しさが漏れた。 俺はいつからこうなった? 自分本性を見せるのが嫌で、人と接するのが恐くなった。 恐いさ。自分の心を知られ、相手に拒絶されたらって思うと、何もできなくなる。 昔は違った。もっと素直で、捻くれてなんかなかった。 戻れるなら戻りたい。誰にだって分け隔てなく接することができた素直な…… 乗用車のハイビームが顔を照らす。 ボンネットが突き刺さり、フロントガラスを叩き割る。 血が噴き出し、視界を赤く染めている。 朦朧とする意識の中、跳ねられた俺を野次馬が見下ろしているのがわかった。 この世界は正直だ。なにもしなかった人間には、こんな制裁が下される。 世界の素直さを肌で感じながら、全身チューブだらけの包帯姿で寝ながら病院の天井を眺めていた。 「見つけた」 深夜、病室に人の気配が沸いた。 「高い身体能力。一定値以上の破壊願望。現行世界への憎悪と羨望。全て基準値以上」 不自由な姿のせいで視線を向けることができなかったが、圧倒的な存在感を感じた。なにかいる。人間以上のなにかが。 「このプログラムはあなたのような有機生命体が適任」 足音が少しずつベッドに近付き、冷たい手が腹に置かれる。 「防衛プログラム朝倉涼子を止めて」 早口言葉を逆回しで20倍速再生するような声が聞こた。 待て!俺に何をした!?長門有希! もちろん言葉にはならなかったが、叫ばずにいられなかった。 「改変世界の破壊。それに準ずる行動」 わけのわからない発言の後で闇に溶ける直前、長門有希の整った唇が小さくはためいた。 ご め ん な さ い 「俺は……既に死んでいるのか?」 灰色の一年五組で、さっきの現象を思い出していた。 あぁ、全て思い出したさ。俺は光陽園学院なんか行っていない。北高一年五組の生徒だ。 大体、俺の母親に進学校へ通わせられるほどの蓄えがあるわけないだろ。県立高校に行くことだけで精一杯だったのに。 俺はあの日、クラスメイト達の陰口を聞き、学校から逃げ出した。そしてほぼ無意識で車道に飛び出して交通事故にあったのだ。 その後は……覚えてない。気がついたら「ここ」にいた。 ここは地獄でもなんでもなかった。俺がいた世界から書き換えられた新世界だ。 この世界では俺は交通事故にはあってないし、北高生でもない。 それでも元の世界に戻りたいか?この世界にいる限り俺が死ぬこともないし、孤独になることも無い。 居場所だってそれなりにある。母親は既にいないが友人はいる。 元の世界に比べりゃ、こっちの方が魅力的だ。 「……そうじゃない。そうじゃないんだ」 弱くてもいい。何度だって負けてもいい。だけど、現実から目を背けるな。 逃げなきゃいいいんだ。どんなに抗えない敵だろうと、戦わずに逃げるなよ。 元の世界に戻ったら、俺は死んでいるかもしれない。 そりゃあ死ぬのは嫌さ。嫌に決まってるだろ。 でも、ここで逃げたら一生後悔する。それが「この世界で死ぬまで」なのか「元の世界で死ぬまで」の差だ。 「……俺はもう逃げない。決めたんだ」 立ち上がり、教室のドアを開いた。 文芸部室に行けば長門有希がいるはずだ。そこで事の真意を知ろう。 なぜ俺なのか?俺に何をさせるのか?そして……元の世界に帰る方法も。 「俺は……この改変された世界を破壊するためのプログラム・西野太陽。 誰にも文句は言わせない。これが俺の物語だ」 『この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。それが、わたし』 『わたしはこの時代の人間ではありません。もっと、未来から来ました』 『ちょっと違うような気もするんですが、そうですね、超能力者と呼ぶのが一番近いかな。そうです、実は超能力者なんですよ』 『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上』 『俺、実はポニーテール萌えなんだ』 『あなたが死ねば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。多分、大きな情報爆発が観測出来るはず。またとない機会だわ』 『時間というものは連続性のある流れのようなものでなく、その時間ごとに区切られた一つの平面を積み重ねたものなんです』 『生み出されてから三年間、私はずっとそうやって過ごしてきた』 『煎じ詰めて言えば『宇宙があるべき姿をしているのは、人間が観測することによって初めてそうであることを知ったからだ』と言う理論です』 『いつだったかのお前のポニーテールはそりゃもう反則なまでに似合ってたぞ』 スピーカーから流れる言葉は、いつもならSFすぎて関心するだろうが、今はこんな状況だ。信じない方がおかしい。 俺がいた場所は退屈でくだらない世界ではない。 何でも知ったフリをした俺がガキだった。 戻りたい。本心だ。 記憶の中から部室棟の居場所を思い出しながら、灰色の校舎を歩き回ること数分。やっとSOS団のアジトがある文芸部へとたどり着いた。 この世界になった前日の深夜、俺は病室で六組の長門有希を見た。 この学校じゃたった一人の文芸部員であり、SOS団のメンバーらしいからな。 ここまで証拠が揃っていて無関係なわけがない。 間違いなく関係者だ。それも黒幕クラスのな。 ノックを四回しても返事がなかった。まぁ、いてもいなくても上がり込むけどな。 ここは便宜上は文芸部室だが、今は涼宮ハルヒ率いるSOS団アジトだ。初めて中を見たが、部室って言うよりは子供の秘密基地に見える。可愛いところあるじゃないか。涼宮ハルヒ。 いた、長門有希だ。窓際のパイプ椅子に腰をかけて、殺人事件の凶器になれそうな本を開いている。 「俺を読んだのはお前か?長門」 「消失世界及び改変世界の同期を確認。西野太陽、あなたを待っていた」 このセリフが出たと言うことは、物語のラストに流れるめでたしめでたしまであと少しだと思っていいのか?あまり鵜呑みにはしたくないが。 「待っていたねぇ。俺もお前には会いたかったよ。もちろん、何でこんなことになったんだと聞く意味でだがな」 交通事故に逢ったはずの俺が元気でいたり、気がついたらこんな色気の無い夢想世界に召喚されちまったことも含めて知らないことだらけだ。 ここまでされて謎を残すなんて出来るか。 「全て話してくれ。何も知らないまま退場なんかしないからな」 「言語では情報に齟齬が生じる。でも聞いて」 「何を今さら。例え涼宮ハルヒが神様と言おうが信じてやるよ」 その通りだった。 「なんだそりゃ。馬鹿馬鹿しすぎて笑えるね」 「真面目に聞いて」 長門有希が声のトーンを少し重たくした。 「聞いてるし信じてるから安心しろ。その上にあんなに探していた宇宙人未来人超能力者が、こんなに近くにいたとはな」 こんな面白い話あるかよ。ああ、ここにあるのか。 「今、私たちが存在している空間は、涼宮ハルヒの情報創造能力で私が構成した情報空間。改変世界の裏側に存在する」 情報空間に改変世界。まず間違いなく、こんな事態でなければ聞く機会など無かったであろう単語だ。 「お前らが今まで何をしてきたかはわかった」 大筋だけ理解したが、壮大すぎる。こんな状況でなければ誰も信じないだろうね。まさかこんな狭い部屋が世界の命運を握っていたなんてな 「重要なのは「今」だ。一体、今なにが起きているんだ?」 俺の蘇生と母の死。 防衛プログラムと破壊プログラム。 連続殺人鬼朝倉涼子。 小さな涼宮ハルヒと灰色の世界に蒼い巨人。 この全てを繋げなければ、この物語は終わらない。終わらせない。 「防衛プログラムと破壊プログラムとはなんだ?」 朝倉涼子と長門有希が発していた二つのプログラムの存在理由がこの世界の核である。これを知らなければならないはずだ。 「防衛プログラムは、選択権を持つ彼を殺害し、改変世界を防衛することが目的。それを防ぐために破壊プログラムを探索していた」 破壊プログラムと発した瞬間、長門有希は俺に目をくれた。 「破壊プログラムが存在する限り、朝倉涼子は鍵である彼を殺せない」 おいちょっと待て。それじゃあ、 「朝倉涼子の殺人は、破壊プログラムであるあなたを見つけるために行なわれた選別作業。数あるパターンの中で、破壊願望を爆発できる人物を……」 「ふざけんな!」 木目の天板が、握り拳の一撃で叩き割れた。 「俺の母親は、そんな下らない理由で殺ろされたのか!?」 長門有希の語る真相は俺には理解しがたいものだった。 朝倉涼子がなぜ連続殺人を行ったか。それは大切な存在を奪われ、復讐の念に捕われるほどの強い破壊願望を持てる人物を探すためだ。 「改変世界の中で、朝倉涼子が破壊プログラムと判断した人物は10人。彼女はその中から、あなたを見つけた」 そう「選別」だったのだ。朝倉涼子はひよこのオスとメスを判断する作業を行なうくらいの気分で人を殺し、俺に辿り着いた。 「じゃあ何か?!お前は俺と朝倉に殺し合いさせて、高見の見物かましてたってのか?!」 俺が朝倉涼子を止め、キョンに選択させる。それが世界を破壊した長門有希の義務であり、俺の役割だ。 「SOS団のある世界を守るためには必要なこと」 「それがくだらないって言ってるんだよ!」 長門有希は俺が朝倉涼子へ復讐を決意するために、俺の母親を殺したと言ってるようなものだ。 そうしなければ、母の死を目の当たりにした俺が防衛プログラムである朝倉涼子とカチ合わない。 「お前の言う「世界」ってのは、そこまでして守る価値がある物なのか!?」 俺は絶対に認めない。誰かの犠牲の上で成り立つ世界なんか間違っている。 それでもこいつはやったんだ。自分の尻拭いを俺とキョンにさせるためにな。 「なにがプログラムだ!お前に取っちゃゲームみたいな物かも知れないがな、俺に取っちゃ現実以外の何物でも無いんだよ!」 母親が惨殺された姿なんて一生物のトラウマだ。二度とハンバーグ喰えそうにねーよ! 「問題ない。彼が脱出プログラムを作動し、時空を改変すれば時間軸の書き換えが行なわれる」 問題ない?それでアフターケアのつもりか! 「俺の感情や激昂はどうなる!これを無かったことにできるほど俺の魂は腐っちゃいないんだよ!」 全てキレイサッパリ忘れろってか?冗談じゃねぇ!俺のせいで死んだ母親と、俺のために死んでくれた森園生を忘れるなんてできるか! だが、長門有希は俺を本気で理解できないのか、黒曜石の瞳を動かすことなく凝視している。 その姿が異様に機械的に見えたせいか、俺の中の攻撃性がドンドン剥き出しになっていく。 「おまえにわかるのか!?唯一の肉親を失った気持ちが!命張って助けてくれた恩人を見捨てた気持ちが!わかるわけないよな!無から生まれた心無い人形風情なんかに、人間の気持ちなんて理解できるか!」 おいこら何とか言ってみろよ。お得意の理解不可能な超言語で解説でも弁明でも反論でもしてみろよ。出来るもんならなら! 「……私には、あなたが興奮する理由が理解できない。でも、あなたが激昂していることはわかる」 んなもん見りゃわかるだろうが。ふざけてんのか? 「私は人間の倫理の一線を越えてしまったと思われる。謝罪する」 誰が見てもわからんだろうが、わずかばかり頭を傾けた気がした。 「で、俺になにをさせる気だ」 少しでもドーパミンを鎮めようと、足を割れた天板に投げ出す。宇宙人側の願いを聞いてやるなんて癪だが、俺が無事に帰るためには、こいつらの言う事を聞かなきゃならん。あー、ムカつく。 「あなたに依頼する事は一つ。防衛プログラムである朝倉涼子の破壊」 どうやら今度は俺を殺人鬼にするつもりらしい。 「なんで俺なんだ。お前がやればいいじゃねーか。自分の尻くらい自分で吹けよ。それができなきゃ最初っからやるな」 俺は今までケンカや無免許運転等、結構な悪事をやってきたが、殺人なんかしたことはない。それが人間の一線を超えた行為であることくらいわかるさ。 「私が情報操作を行えるのはこの空間だけ。それは朝倉涼子も同様だが、彼女は防衛プログラムの役割りを担う為、常人よりも身体能力を高く設定した」 知ってるさ。ナイフで弾丸弾き落としてたしな。 「朝倉涼子を止めることができる存在は、彼女と対なる存在として改変世界にインストールされたあなただけ」 買いかぶりすぎだ。俺はどこにでもいるエセヤンキー生徒であり、間違っても世界の命運を握るようなタマではない。自分がスーパーヒーローになれないことくらい自分が一番よくわかっている。 「信じて」 黒曜石の輝きが真っ直ぐに俺を射抜く。 「こんな作り物の世界、クソだ。だからお前らの望むように動いてやるよ。だがな、これだけは聞かせろ」 「何?」 「決まってるだろ。なぜお前がこんなことをしたか、だ。なぜ全てをリセットするマネをしたのに、俺を使って修正なんかする。明らかに矛盾してるだろうが」 リセットボタンを押してセーブデータを消した本人が、今度はわざわざデータを修復している。 途中で過ちに気付いたからか?違うね。だったら事前に防衛プログラムと破壊プログラムを仕込むわけがない。 長門有希は最初っから俺と朝倉涼子が激突することを決めていた。そうとしか考えられない。 「それは……」 言いよどむ様に虚空を睨んでいる長門有希の仕草に、少しだけ罪悪感を覚えた。俺は学校の先生には向いてないのかも知れない。 「朝倉涼子は私の利己主義によって再構築された存在。私は全ての現象を破壊したかった。しかし絶対に防衛すべきとも思考した。……なぜ?私には理解できない」 知るかよ。と言いたかったが、俺の類まれ無いほどに発達しシックスセンスが答えを見つけてしまった。 朝倉涼子が創造されたのがエゴだと言った。なら俺は? そう、俺は長門有希の良心なのだ。 長門有希の心の中には、確かに全てを破壊したくなるような負の感情が備わっていた。だがそれを許さない正の感情もあったはずだ。 だから俺をここに呼び寄せた。 エゴを止めるために。 良心を信じるために。 っち、憎悪の感情が薄れちまったじゃねーか。 「もうわかった。俺はお前の科した役割を全うしてやるよ」 朝倉涼子を止める。そうしなければ俺は現実には帰れないし、腹の虫も治まりそうも無い。 「朝倉はどこにいる」 ターゲットがどこにいるか分からなければ朝倉涼子を止められるわけがない。今はノリよりも確実な情報原だ。 「そのまま一年五組に戻って。扉を開けば改変世界の一年五組に繋がる。朝倉涼子はそこで彼をを削除する準備をしている」 便利な上に分かりやすい展開で助かる。そしてラスボスは準備万端ってか。こっちは満身創痍だってのに。時代遅れのカニ歩きファミコンRPGみたく、直前で体力気力暴力を全力で全回復してはくれないだろうか。 割れた天板から足を除けて立ち上がり、入り口の前まで歩き出す。 「だが長門、一つだけはっきりしておく」 ドアノブに手をかけた瞬間、変わらずパイプ椅子に腰掛ける長門有希に目をくれた。ああ、これだけは言っておかないとならない。 「俺は、俺の世界を守るんだ。お前らの世界じゃない。俺の世界だ」 誰のために動くのか。それはSOS団なんてちっぽけな存在じゃない。俺が信じる俺の魂のために動くんだ。 「……こんなこと、人形のお前には理解できないかもしれんがな」 結果的には大差無いが、心情的には大違いだ。俺は俺の魂を信じる。それだけだ。 「そう……かもしれない」 それだけ言って、長門有希は言葉をつぐんだ。 代わり映えの無い灰色の廊下を歩いているが、心情はさっきとまるで別だ。 この廊下を歩き、朝倉涼子と対峙した時。俺は朝倉涼子を殺すことができるのか? やらなきゃならんのだ。できなかったら、俺が朝倉涼子に殺される。 「……そんな簡単に割り切れねーよ」 裏ポケットから煙草のソフトパックを取り出す。おっし。まだ残ってるな。 とりあえず中身を一本くわえ、灯を灯す。一服ぐらいさせてくれ。こっちは色々情報詰め込みすぎてCPUがオーバーヒート気味なんだ。 仮に朝倉涼子を殺せたところで、俺はどうなるんだ? キョンが元の世界を選ぼうが、俺の交通事故がなかったことになるわけがない。 あれはこの世界とは全く関係ない俺のミスだ。今はそれなりにピンピンしているが、気が付いた時には病院のベッドに戻っているかもしれない。 いや、それならまだラッキーだ。あの事故だ。元に戻った瞬間、死ぬ可能性だってある。 だからって逃げ出すわけにはいかない。ビクついて芋引くくらいなら、男を見せろよ。 一年五組への道のりは距離で言えば短かったが、体感的には呆れるほどに長く感じられた。 死刑直前の囚人が十三階段を登る気分はこんな感じだろうか。演技でも無いが、これしか思いつかない。 「……もういい。考えたところでどうにもならない」 前に。一歩でも前に。引いたところで俺の足元には崖しか無いのだから。 だったら飛び込んでやるよ。 煙草を靴底で揉み消し、肺に新鮮な空気を送りこむことで気分を入れ替える。 「いくぜ。朝倉ぁ!」 引き戸をブチ破る力強い蹴りが放たれた。 第四章へ続く
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/108.html
彼女との出会いは、この部室に彼女が押しかけてきたことであった。 当初の予定では、私は観測対象である涼宮ハルヒと距離を置いて、つまり、 人間関係としての接点を持たずに、第三者的な観測を行う予定であった。 直接接触は、バックアップ、つまり朝倉涼子の役目であった。 そのために、もっとも涼宮ハルヒが近づかないであろう「文芸部」の、唯一の部員 というポジションを設定したのだ。 情報統合思念体ですら予想していない事態であった。予想していたら、 私に書道部にでも入るように命じていたに違いない。 昼休みに文芸部室で読書をしていると、いきなり扉が開いた。 この部屋に第三者が近寄る確率を下げていたはずなのだが。 「よし、誰もいないわね」 扉の外から部室を覗いて、彼女は不躾にもそう言った。その時私は、 本棚の後ろにいたのだ。 「なにか用?」 眼鏡越しに、闖入者に視線を向けた。 「あら、ごめんなさい。文芸部って人がいないっていうから見に来たのよ」 そこにいたのは…観測対象、いや、涼宮ハルヒだった。 予定外の事態に、情報統合思念体にリンク。指示を請う。 『観測せよ』 返答はそれだけであった。つまり、私を通じて推移を見たいということだ。 「私は文芸部の部員。なので、部員は存在する」 「そうなの、あなた、一年生?」 彼女は、本棚と、そこにぎっしり詰まった本と、折りたたみ机と、私の分のパイプ椅子しかない部室を 見回してから言った。 「そう」 「私も一年よ。ねえ、この部屋くれない?」 …意味がわからなかった。 「入部するならこれを書いて提出」 きわめて一般的な反応をしてみせる。観測対象との直接接触は、バックアップの役目のはず。 つまり完全に予定外だ。 「入部したい訳じゃないのよ。この部室が欲しいの」 部室というのは、「くれ」「やる」でやりとりすべきものではないはず… …だったはずだ。自信満々、当たり前のこととして言う彼女を前に、判断が揺らぐ。 「ここは文芸部室。私という部員がいるので、文芸部が占有している」 彼女は、少し考えるそぶりを見せた。そして、今読んでいる本の表現を借りると、 「チェシャ猫の微笑み」をみせて、 「じゃあ、あなたもいっしょにもらえばいいのね」 はぁ? 手から本が落ちた。それよりも、私は、自分があっけにとられて「はぁ?」という 反応をするとは思っていなかった。それは、むしろ朝倉涼子の担当する範囲ではないのか。 「あなたが私のモノになれば万事解決ね。ああ、あなたって呼ぶのも変だから、名前教えて」 「長門有希」 「私は涼宮ハルヒよ。有希って呼んでいいでしょ?」 知っている、とは言えない。かわりに、じっと彼女を見た。なぜ、彼女は顔を赤くしたのだろう。 「かまわない」 「それで有希、私のものになるわよね」 強引だ。一般的な反応であれば、断るか怒るかだろう。 「今この部室を使っているのは私ひとり。なので、使うのはかまわない」 観測に都合のいい方で応じた。部室でなく私を要求していたが、部室の要求の言い間違いと判断するのが 妥当であろう。 「ありがとう、これで本拠地が決まったわ」 いきなり抱きつかれた。涼宮ハルヒの体温を観測…と、何をしているのかと自問する。 だが、こうやっていると、第三者的観測で得られない情報が多く得られる。 体温。におい。触感。だきしめられるというのはどういうことか。 もう少し情報を獲得しよう。 私は、観測対象の背中に手をまわした。彼女は、それを何かの合図と思ったのだろうか。 「あ、ごめんなさい」 体をはなす。だが、手が私の顔に向かってのばされた。 「眼鏡、ずれちゃったわね」 彼女の手で眼鏡が直されるまで、私は、眼鏡がずれたことに気が付いていなかった。 「じゃあ、放課後にまたくるわね」 彼女は、入ってきたときと同様、疾風のような勢いで部室を出て行った。 なぜか、放課後が待ち遠しくてたまらなかった。 「へえ、涼宮さんがあなたのところに行ったの」 帰宅後、朝倉涼子と観測方針の調整を行なった。彼女は、 このような調整を行う際に、毎回何らかの料理を持参ずる。そのため、調整は 常に、食事を行いながらとなる。 「確認したところ、私も直接観測を行うよう命じられた」 「…そうなんだ」 朝倉涼子の目がしばし泳ぐ。涼宮ハルヒと私の接触状況の情報を受け取ったのだろう。 「…いきなり抱きつかれたんだ」 「予想外だった」 「そうね。そのわりには、積極的に観察しているのね」 今後の観測方針を調整するはずが、ただ無言の食事となった。
https://w.atwiki.jp/akadama/pages/53.html
僕は今痴漢に遭っていた。 満員電車で身動きも取れず、声を上げるにも男としてのプライドがそれを許さない。 僕は同性にもそういう目で見られる事は多くて。お尻を軽く撫でられる程度の痴漢なら 幸か不幸か、まぁ多少は慣れているとも言えて。 大体この手合いはそこまでしつこくは無いものだから。 そして僕は男だから、この程度で動揺していては……。 半端な慣れが裏目に出るというのも良くある話で。 いつしかお尻に触れていたその手は、前方へと回ってきていた。 車内の隅に追いやられている僕には、身じろぐ隙間も纏わり付く手を退ける余裕も無く。 制服のジャケットで隠れているのを良い事に、その手はズボンのファスナーにまで 手を掛けてきた。 ……これは明らかにまずい。 こんなにも積極的な痴漢は初めてで。 落ち着けと自分に言い聞かせても、僕の心臓はいう事を聞かない。 やがて隙間から手が忍び込み、下着を掻き分け、情け無い事に硬くなり始めている僕自身に触れた。 侵入してきた手が一瞬止まる。 何故止まったのかも想像がついてしまい。ますます自分がふがいない。 「…良い趣味してるな変態」 小さな囁きが聞こえた。 良くはないし、それ以前に僕の趣味では無いんですが。 それに変態というのは男である僕に痴漢しているそちらでしょう。 などと言い返せるはずもなく。 弱い部分を守るはずの体毛は僕のソコには無く。直接肌に指が触れるのが解る。 抵抗も、勿論言い訳も出来ずに、僕はこの場をどう切り抜けるべきなのかを 焦って上手く働かない頭で考えるのみだった。
https://w.atwiki.jp/wiki3_idol/pages/217.html
米倉涼子プロフィール 誕生日 1975年8月1日 星座 しし座 出身地 神奈川 血液型 B型 身長 168cm 特技 バレエ 作品 テレビ 交渉人 肩ごしの恋人 わるいやつら 不信のとき けものみち 黒革の手帖 モンスターペアレント #blogsearch2 サイト名 URL
https://w.atwiki.jp/2679450010/pages/48.html
キョン 秋ソフト2 涼宮ハルヒ 春パステル、夏クリア 朝比奈みくる 春パステル2 長門有紀 夏スモーキー3 古泉樹 春パステル2 朝倉涼子 夏スモーキー 鶴屋 春ビビッド 喜緑江美里 夏クリア キョンの妹 春パステル
https://w.atwiki.jp/terachaosrowa/pages/1361.html
6/を殺して幸先のいいスタートを切り出したハルヒたち。 だが魔の手が彼女らに忍び寄っていることには全く気付かなかった 「サイケ光線!!」 「ひでぶっ!!」 どっからかビームが飛んできて古泉に直撃し、古泉は消し炭になった。 「何ですって…!」 次の瞬間HALの首が宙を舞った。 「他のパロロワから来たくせに調子乗ってんじゃないわよ!!」 ご立腹のハルヒは秘剣カブラステギを鞘に戻す。 「む…これはやばいな…一旦撤退せねば。」 ガイバー状態のキョンはその場から逃げ出そうとする。 「おっと…逃がさないからな。『もう1人の俺』。サイコキネシス。」 するとキョンの身体は急に動かなくなった。 「なん…だと…?」 「さて自分を殺すのは気が引けるな。アカギ頼む。」 「ああ…分かった。」 アカギと呼ばれた白髪の少年はガイバーキョンの頭部に銃を向け、引き金を引いた パァニ…パァニ… 「嘘…」 3人がやられたのを見て朝倉はアニロワでのトラウマが再来し、恐怖で尻餅をついてしまった。 そしてそんな自分を見下ろしているのは紛れもなく『自分』。 少しお腹が膨れており、満面の笑みを浮かべ、ナイフを手に取り立っていた。 そして自分を見下ろす朝倉涼子は口を開く。 「貴方は『助けて…殺さないで!!』という。」 「助けて…殺さないで!!…ハッ!!」 「うん、それ無理♪」 ザシュッ 「勝率0%…よって撤退する。」 長門は逃げ出した。 「逃がさないからな。」 「長門さん待って~♪」 フーキョンと朝倉は逃げる長門を追おうとするが、 「まぁ逃がしときなさい。有希1人で何ができるっていうのよ。」 「朝倉さんは真・長門さんの赤ん坊身篭っているんだろ?無理するなよ。」 ハルヒとアカギがそれぞれ止めた。 「さて、主催をぶっ潰してこのロワを乗っ取ってやるわ!新生SOS団突撃ぃぃぃ!」 「まぁせいぜいがんばるか…」 「そして長門さんを保護する!!」 「ククク…狂気の沙汰ほど面白い…!」 【一日目・午後12時35分/カナダ】 【新生SOS団】 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態] 健康 [装備] 秘剣カブラステギ+99(金、三)、ラセン風魔の盾+99(金、と)(それぞれ追加効果の全容不明)、 罠師の腕輪、転ばぬ先の杖 [道具] 大量の復活草 [思考] 1:まずは主催を潰してロワを乗っ取る 2:とりあえずシレンを探す 3:仲間が増えてご満悦 【フーキョン@涼宮ハルヒシリーズ】 [状態]:Lv.99 健康 [装備]:不明 [道具]:不明 [思考]: 1:ハルヒについていく 2:仲間が増えるのは良い事じゃないか [備考]:チートでフーディンに進化しました。 チートで覚えられる全ての技を覚えました。 【朝倉涼子@ハルヒシリーズ】 [状態]対有機生命体コンタクト用インターフェース、真・長門の子を孕んでいる [装備]朝倉専用コンバットナイフ [道具]不明 [思考]基本:主催を殺し合いの場に引き摺り下ろす 1:真・長門さんと合流したい 【赤木しげる@アカギ】 [状態]強運、神域、悪漢 [装備]拳銃 [道具]不明 [思考]基本:主催を殺し合いの場に引き摺り下ろす 1:狂気の沙汰を楽しむ 【長門有希@kskロワ】 [状態]:健康 [装備]:不明 [道具]:不明 [思考]:基本:HAL様奉仕 1:不利なので今は逃走する。 【古泉一樹@ラノロワ 死亡確認】 死因:サイケ光線が直撃 【涼宮ハルヒ@オールロワ 死亡確認】 死因:ハルヒに首を狩られる 【キョン@kskロワ 死亡確認】 死因:アカギにパァニ…される 【朝倉涼子@アニロワ 死亡確認】 死因:朝倉にナイフで刺される
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5080.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5099.html
https://w.atwiki.jp/ln_alter2/pages/33.html
◆LxH6hCs9JU氏 投下した作品 No. タイトル 登場人物 001 盤曲の台は食い違い インデックス、ヴィルヘルミナ・カルメル、フリアグネ 007 紅蓮への懇願 シャナ、櫛枝実乃梨、木下秀吉 046 凶る復讐心 浅上藤乃 047 朝比奈みくると土屋康太のバカテスト 朝比奈みくる、土屋康太 053 粗悪品共の舞踏会 アリソン・ウィッティングトン・シュルツ、シズ、キョン、メリッサ・マオ、リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ、相良宗介、フリアグネ、トラヴァス、坂井悠二 059 ユケムリトラベル(上) 人類五名温泉宿の旅ユケムリトラベル(下) 人類五名温泉宿の旅 朝倉涼子、師匠、北村祐作、筑摩小四郎、姫路瑞希、黒桐幹也 061 二輪車の乗り手 上条当麻、千鳥かなめ、シャナ、櫛枝実乃梨、木下秀吉 064 化語(バケガタリ) ガウルン、如月左衛門 067 超難易度(レベルベリーハード) 白井黒子、ティー、黒桐鮮花、クルツ・ウェーバー、土御門元春 083 ハラキリサイクル(上) 忍法・戯言破りハラキリサイクル(下) 忍法・神落とし 朧、涼宮ハルヒ、いーちゃん 085 箱――(白光) 玖渚友 089 ゆうじスネイク 坂井悠二、キョン 091 「葬儀の話」― Separation ― シズ 097 「続・ネコの話」― Destroy it! ― 白井黒子、ティー 098 アミとトレイズ〈そして二人は、〉 トレイズ、川嶋亜美 102 スキルエンカウンター(上) 古泉一樹の挑戦スキルエンカウンター(下) 古泉一樹の挑戦 水前寺邦博、須藤晶穂、御坂美琴、シャナ、古泉一樹 105 国語――(酷誤) 紫木一姫 106 愛憎起源 Certain Desire. ステイル=マグヌス、白純里緒、零崎人識 109 献身的な子羊は強者の知識を守る インデックス、テレサ・テスタロッサ 116 「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― 朝倉涼子、師匠、浅上藤乃 120 しばるセンス・オブ・ロス リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ、相良宗介、フリアグネ、トラヴァス、両儀式 121 競ってられない三者鼎立? 千鳥かなめ、ガウルン、如月左衛門 123 問答無用のリユニオン 黒桐鮮花、クルツ・ウェーバー、白井黒子、ティー、浅羽直之、玖渚友 127 お・ん・なビースト~一匹チワワの川嶋さん~ 川嶋亜美 131 “幻想殺し”と黙する姫【レイディ】 上条当麻、姫路瑞希 136 ペルソナヘイズ(上) 少女には向かない職業ペルソナヘイズ(下) 少女には向かない職業 ヴィルヘルミナ・カルメル、逢坂大河、島田美波、テレサ・テスタロッサ、インデックス、シャナ、須藤晶穂、キノ 137 糸語(意図騙) 如月左衛門、紫木一姫 141 死線の寝室――(Access point) 坂井悠二、水前寺邦博、西東天 144 エンキリサイテル(上) 狩人vs.不知なるシズエンキリサイテル(下) 狩人vs.不知なるシズ シズ、伊里野加奈、フリアグネ、トラヴァス、両義式、黒桐鮮花、クルツ・ウェーバー、白井黒子、ティー、浅羽直之 149 キノとトレイズ〈そして二人は探しに行った〉 キノ、トレイズ 150 零崎人識の人間関係 涼宮ハルヒ、いーちゃん 158 「作戦会議」― IN Bennys ― 師匠、朝倉涼子、浅上藤乃 160 忘却のイグジスタンス リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ、相良宗介、クルツ・ウェーバー、黒桐鮮花 167 浅羽直之の人間関係【改】 浅羽直之 登場キャラ 4回 クルツ・ウェーバー、黒桐鮮花、シャナ、白井黒子、ティー、フリアグネ 3回 浅上藤乃、朝倉涼子、浅羽直之、インデックス、如月左衛門、坂井悠二、相良宗介、師匠、シズ、トラヴァス、リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ 2回 いーちゃん、ヴィルヘルミナ・カルメル、ガウルン、上条当麻、川嶋亜美、キノ、木下秀吉、キョン、櫛枝実乃梨、玖渚友、水前寺邦博、涼宮ハルヒ、須藤晶穂、千鳥かなめ、テレサ・テスタロッサ、トレイズ、姫路瑞希、紫木一姫、両儀式 1回 逢坂大河、朝比奈みくる、アリソン・ウィッティングトン・シュルツ、伊里野加奈、朧、北村祐作、古泉一樹、黒桐幹也、西東天、島田美波、白純里緒、ステイル=マグヌス、零崎人識、筑摩小四郎、土御門元春、土屋康太、御坂美琴、メリッサ・マオ コメント欄 記念すべき第一話☆インデックスはやっぱりインデックスで吹いたw -- 名無しさん (2009-06-01 23 45 31) 予想もしなかった、でも確かに面白い、ワクワクする、次が気になって仕方ない。そんな素晴らしいトスを正確に上げてくる職人芸の持ち主。 -- 名無しさん (2009-06-17 03 21 44) 予想をいい意味で裏切る構成が素晴らしい。キャラ一人一人が生き生きと描けている凄い人。 -- 名無しさん (2009-06-26 16 48 54) 非常にオールラウンダーの人。どんな展開もそのキャラらしく魅せてくれる。シャナ勢を書くのが上手く愛を感じる。 -- 名無しさん (2010-01-29 04 45 28) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5222.html
名も無い私に与えられた任務は、第三惑星から発信される情報の観測、及びその惑星を標的とする他の意識集合体への警戒だった。 人間が観測し得ない距離からの第三惑星の監視を続けて三年(第三惑星における時間換算)が経過した。 以前は第三惑星での観測任務をしていたが、ある時にこの惑星への位相を命じられた。訂正、この星は惑星の定義から外された為、現在は矮惑星に分類されている。 この星には恒星の恩恵も届かず地表は凍りついている。太陽など只の点でしかない。この岩石のみの世界を殺風景と表現せずにいられようものか。 第三惑星と相対的に見ると公転周期が極端に長いこの矮惑星上から、軌道の反対側の事柄について対処するのは困難を極めた。だから外部からの侵入を容易く許してしまったこともある。 幾度となく侵入阻止失敗を報告したにも関わらず、統合思念体は私をここに留まるよう命じた。そこまでする理由が理解出来ない。 今頃、私に代わって第三惑星に派遣された彼女達はどうしているのだろうか。 第三惑星での生活における情報収集に私を派遣したかと思えば、実際の任務に就いたのは彼女達だった。それを思い出す度にエラーが発生してしまう。だから出来るだけ思い出さないようにしている。 報告された記録を閲覧したが、実際に第三惑星での観測を行なった私にも理解し難いものばかりであった。非常に興味深いが、私は蚊帳の外だ。 …… …… …… 考えるのは止めよう。私は只の補助要員、試験的に生み出されたTFEIだから。 ただ、与えられた任務をこなすだけだから。 そう思っているのに、エラーが邪魔をする。 分析を何度も試みて判明したことは、彼女達のエラーとは根本は同じだが詳細は異なるということだ。 「深刻なエラー発生、出力45%アンダー、一時帰還を申請」 『不許可』 「私をここへ位相した説明を」 『黙秘』 幾度となく繰り返されたことだ。 何故統合思念体は黙っているのだろうか。 私には、彼女達と比較して何かが足りなかったのだろうか。私は「左遷」されたのだろうか。 …… …… …… 考えるのは止めようと、あれほど言い聞かせたのに。 *** 誰もいない教室で誰かの席に座って待つこと数十分、ようやく彼がやって来た。 「長門だったのか。メモ書きなんか寄越すからつい朝倉かと思っちまったぜ」 放課後にここに来て欲しい、という主旨を書いた紙片を彼の下駄箱に入れたのは私。彼は以前、同じ方法で呼び出した朝倉涼子に殺されそうになったのだ。 「ごめんなさい」 「いや、謝らなくていい。それよりどうして俺を呼び出したんだ?」 「何者かが地球へ接近している」 単刀直入な発言が可能なのは、この場に彼しかいないから。 「宇宙人か?」 45分前に相手がこちらに情報を発信してきた。現時点での相手の目的は不明。 「…………………………………………………」 「どうした?」 「新たに情報を受信した。相手は私と同じ対有機生命体コンタクトヒューマノイドインターフェース」 「そいつは敵か味方かどっちだ?」 「発信された情報によると彼女は保守派に属している。保守派は現在、主流派の傘下」 「彼女って……、そのなんちゃらインターフェースに男はいないのか?」 「未確認」 「そうか……」 彼は少しうつむいていたが表情が緩んでいるようにも見える。なぜだろう。 「お前のパトロンと所属が同じってことは、味方なのか?」 彼は私のことを過度に心配する。何故だろうか。 「そうでもないと思われる。強い敵意を感じる」 「何が目的なんだ?」 「分からない」 彼が困ったような表情をしているが事実を述べたので仕方ない。 違和感を覚えた。彼は異変に気付いていないが当然のこと。 「亜空間が創造されたのを確認、私を誘導している」 「そこに行くのか?」 「従わない場合、現実世界に被害が及ぶことも考えられる」 「だがこれは罠かもしれないぞ」 彼は私を心配している。だが、彼が懸念するような事態は起こらないと推測される。 「大丈夫」 私は立ち上がり、窓際に移動した。 「亜空間への移動を開始する。貴方はここで待ってて」 「お、おい長t ………………………………………………………… 侵入した亜空間は、涼宮ハルヒの閉鎖空間のように、現実世界をそのままコピーした空間だった。 私の背後にいた彼の姿が消えていた。 「……」 そして代わりに、『彼女』が扉の前に立っていた。黒いワンピースを纏った白い長髪のプロトタイプTFEI、現在は別の任務に就いていた筈。彼女は真っ直ぐ私を睨んでいる。 「貴方を見ていると、不快」 彼女がそう呟いた瞬間、私は宙に投げ出されていた。 目的は私の破壊だったのだろうか。 これまでと比較すると遥かに大規模な戦闘になっていた。 瞬く間に校舎は破壊され、煙を上げながら倒壊していた。 コンクリートの粉塵の中から一瞬姿をとらえたが次の瞬間には見失っていた。移動速度は格段に速く、私一人では標準を捉えるのが困難だった。 こちらに向かって硝子やセメントの破片が飛来する。数が極端に多く速度も速い。その上、あらゆる方向から無秩序に飛来するので全てを防ぐことが出来ない。 防御シールドを貫通した幾つかの破片が身体をかすめ、切り傷をつくっていく。 彼女が超高速移動を止め、立ち止った。 「先ず落ち着いて欲しい。貴方に恨まれるような言動をした覚えは無い」 「貴方達に、理解されたくない」 彼女はそう言って攻撃を続ける。精神が安定していないようだ。彼女の身にに何があったのだろう。 次第に彼女の戦闘能力が異常な訳が判明してくる。彼女は自分に対して情報操作を施していた。自己暗示で戦闘能力のリミットを一時的に超えた力を発揮しているのだ。 「私の能力の制限値は、元々貴方達よりも高く設定してある。貴方に勝機は微塵も無い」 硝子の矢が防御シールドを無視して身体を貫通した。朝倉涼子の時のように裏から情報操作する余裕がない。こちらが劣勢なのは明らかだった。 腹部に突き刺さった矢を消去していると、突如として彼女が目の前に現れた。 回避不能、 防御…不能。 「貴方達に、私の事など…」 瓦礫の山から這い出た。さすがに身体の損傷が激しい。神経系も破損したのか制御が効かない。 私はセメントや鉄筋の破片で凸凹の地面に横たわった。 横たわったまま改めて周囲を見渡すと、至る所に血痕が残っている。私は攻撃していないので血痕は全て私のだろう。 私の横に彼女が立っていた。ワンピースにすら損傷は無い、私が防御で精一杯だった証拠だ。 「立て」 「拒否する。この戦闘には何の利益も…」 腹部に鉄筋が突き立てられた。抜こうとしても、地面深くにまで貫通したのか全く動かない。 「それ程の戦闘能力を有していれば、私を破壊すること等、容易い筈」 彼女が私の頭部を踏み付ける。私は彼女の目を見た、怒り以外の何かが感じられた。 「何故、手加減を」 「この亜空間へ誘導した理由は、人間への被害を考慮せず能力を存分に発揮させる為であり、貴方を完全に破壊しない程度にいたぶり続ける為」 「嘘」 これが今の私に出来る唯一の抵抗だった。力を消耗し損傷が酷い状態では何も出来なかった。 「……」 「貴方は嘘を」 「何故攻撃しない。身に危険が迫っているというのに」 彼女が話を逸らせたのには理由があるに違いない。 「貴方の目的は私の破壊ではない。それだけは言える」 「………」 「何があったのか、詳細を話して欲しい」 彼女は私を無視した。 周囲で核融合反応が起こりつつある。反応が完全に進行すれば、損傷により防御シールドが展開出来ない状態である私は、この空間もろとも蒸発するだろう。 だがそれは起こり得ない。彼女にそんなことは出来ない。 「!!」 突然反応が止まった。彼女の身体に鎖が巻き付き、瞬く間に拘束してしまった。そして私を固定していた鉄骨が消えた。 「もう止めましょう」 現れたのは喜緑江美里だった。その後から朝倉涼子もやって来た。 「長門さん、遅れてごめんなさいね」 「いい、損傷箇所は修復されている」 彼女には想定していなかった出来ごとだったらしく、冷静とは程遠い表情であった。 「どうしたのです。冥王星での監視任務は放棄したのですか?」 喜緑江美里を睨みつける彼女の呼吸は荒れていた。 「…黙れ」 「あら、穏やかではありませんね」 「…非常に気に入らない」 その時、統合思念体からの彼女についての事情を受信した。 三年間続いた彼女の任務の実態は、長期間の「エラー」への耐久テストだったというのだ。 保守派は彼女を実験に使用していた、任務など最初から無かったのだ。 激しいエラーの末に自らの情報連結を解除したりしないように、彼女の情報操作能力の大半を消去した上であの矮惑星に配置していた。 エラーに対する耐久性の実験……。それはどれ程の苦痛だったのだろう。今の私には知る由もない。 「…事情はある程度把握しました」 「保守派もなかなか酷い派閥ね、暴れたくなるのも無理無いわ」 「同情されたくない」 彼女が吐き捨てるように言ったその時、保守派が行動に出た。 『端末情報消去申請』 私が以前、朝倉涼子に行使した情報連結解除は身体のみを失い意識は統合思念体へ回帰する。しかし情報消去の場合、意識すら削除される。つまり、保守派は彼女を始末するつもりなのだ。 「…保護解除」 彼女がそう宣言した。自己暗示だけでなく強力な保護も施していたのだ。通りで全く敵わなかったのだ。 既に覚悟していたらしく、表情に変化は無い。 だが、私はそれを許さなかった。 「主流派TFEI長門有希、この申請に抗議」 彼女が驚いたように私を見る。 喜緑江美里がそれに続く。 「穏健派として、この申請に抗議します」 そして、朝倉涼子も、 「分かったわ、急進派もこの申請に抗議するわ」 しばらく無音が続く。統合思念体が議論している。 『申請棄却』 決定を聞いた朝倉涼子がため息をつく。 「全く、主流派がエラーに興味を持ってて助かったわね」 喜緑江美里が彼女の拘束を解いた。 瓦礫の上に座り込んだ彼女は理解不能といった様子だ。 「所属する派閥の変更を推奨しますよ」 「そうね、申請しようかしら」 「何故…」 「ん?」 彼女の目から、「涙」が溢れていた。ぽたぽたと瓦礫の上に点を描いた。 「私を保護する理由等無い筈。それなのに…理解不能」 「貴方のことを忘れる訳ないでしょ? 名無しさん」 彼女は泣きながら朝倉涼子にしがみついていた。統合思念体によると、この瞬間に大量のエラー情報が一斉に削除されていたらしい。 「…ありがとう」 「どういたしまして」 朝倉涼子が笑顔で応える。 彼女が振り向いてこちらを見る。 「長門有希…」 「何」 「久しぶり」 ようやく挨拶をした。 「久しぶり」 私もそれを返した。 それでも、彼女は長期に及び放置されたエラーによる中枢ポートの破損が多かった為、情報連結は解除されることとなった。 「……」 「次に会う時には、学校で」 彼女は頷いてくれた。 そして光の粒子となって消えていった。 「さて、終わりましたね」 喜緑江美里が空を見上げる。 「保守派も、あの子に名前くらい付けてあげてもいいんじゃないかしら、自分の娘なんだし」 朝倉涼子は腕を組んで愚痴を溢した。 「保守派は時折理解不能な行動に走る。だから主流派がそれを抑制するために傘下に入れた」 「貴方の派閥に入ってたから、今まで私達急進派が保守派に手を出せなかったのよ」 「それよりも貴方は更生に努めるべき。このままでは貴方の復帰はあり得ない」 「それはどうかしら? こっち(急進派)は必要があれば何時でも私を派遣する意向みたいよ」 「それは私が全力で阻止する」 「やってみなさいよ」 「二人共、この件については解決したのだから良いじゃありませんか。そろそろこの空間を解除しますね」 「じゃあね、お疲れさま」 朝倉涼子が手を振った。 そして、それぞれが元の場所へと戻った。戻った瞬間、教室にいた彼が驚愕の表情を見せた。 「ぅぉ長門!? 大丈夫なのか?」 不覚、身体は修復したが、衣服の修復を忘れていた。制服は引き裂け、血液が染み付いていた。 即座に制服の修復をした。 「大丈夫、身体は既に修復してある」 「…一体何があったんだ?」 戦闘…等と言うのは避けたいという意思があった。 「旧友との喧嘩」 「ケンカ?」 「そう、何か」 「いや、別に何も無いが…」 「近い将来、転校生がやって来る可能性がある」 「それって、まさかそのTFEIか?」 これは私の仮説だから実現することはないかもしれない、しかし、 「大丈夫、彼女は優しい」 私という個体は、それに期待している。 その時はどんな名前でやって来るのだろうか、楽しみ。 「うぃーっす、WAWAWA忘れm…」 「私の余韻を返して欲しい……」 私は泣いていたのかもしれない。これが、怒り……。 「え? 何…痛い痛い痛い痛い痛い」 「おおぉおい長門……」 渾身の力でアイアンクローをしていた。 「返して…返して…」 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア……」 翌日、パーソナルネーム谷口は学校を欠席。原因は不明。